のように考える向きもあったらしいが、断じてそんなことはあり得ない。いやしくも軍人がお勅諭を駆引に用いることがあり得るだろうか。
 世はいよいよ国防国家の必要を痛感して来た。国防国家とは軍人の見地から言えば、軍人が作戦以外のことに少しも心配しなくともよい状態であることで、軍としては最も明確に国家に対して軍事上の要求を提示しなければならない。私は世人の誤解に抗議するとともに、私のこの態度だけは、わが同僚並びに後輩の諸君に私のようにせられることを、おすすめするものである。
 私は一試案を作ってそれに要する戦費を、その道に明るい一友人に概算して貰った。友人の私に示した案は私の立案の心理状態と同一で、どうやら内輪に計算されているらしい。
 私の考えでは軍は政府に軍の要求する兵備を明示する。政府はこの兵備に要する国家の経済力を建設すべきである。しかし当時の自由主義の政府は、われらの軍費を鵜呑みにしてもこれに基づく経済力の建設は到底、企図する見込みがないところから、軍事予算は通過しても戦備はできない。考え抜いた結果、何とかして生産力拡充の一案を得て具体的に政府に迫るべきだと考え、板垣関東軍参謀長と松
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