第四 戦闘方法の進歩
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
一 古代の密集戦術は「点」の戦法にして単位は大隊なり。横隊戦術は「実線」の戦法にして単位は中隊、散兵戦術は「点線」の戦法にして単位は小隊を自然とす。戦闘の指導精神は横隊戦術に於ては「専制」にして、散兵戦術にありては「自由」なり。
日露戦後、射撃指揮を中隊長に回収せるは苦労性なる日本人の特性を表わす一例なり。もし散兵戦闘を小隊長に委すべからずとせば、その民族は既にこの戦法時代に於ける落伍者と言わざるべからず。
戦闘群戦術は「面」の戦法にして単位は分隊とす。その戦闘指導精神は統制なり。
二 実際に於ける戦闘法の進歩は右の如く単一ならざりしも、この大勢に従いしことは否定すべからず。
三 将来の戦術は「体」の戦法にして、単位は個人なるべし。
[#ここで字下げ終わり]
第五 戦争参加兵力の増加と国軍の編成
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
一 職業者よりなる傭兵時代は兵力大なる能わず。国民皆兵の徹底により逐次兵力を増加し、欧州大戦には全健康男子これに加わるに至れり。
二 将来、戦闘員の採用は恐らく義務より義勇に進むべく、戦争に当りては全国民が殺戮の渦中に投入せらるべし。
三 国軍の編制は兵力の増加に従い逐次拡大せり。特に注目に値するは、ナポレオンの一八一二年役に於て、実質に於て三軍を有しながら、依然一軍としての指揮法をとり、非常なる不便を嘗《な》めたりしが、欧州大戦前のドイツ軍は既に思想的には方面軍を必要としありしも遂に、ここに着意する能わずして、第一・第二・第三軍を第二軍司令官に指揮せしめ、国境会戦にてフランス第五軍を逸する一大原因をなせり。
戦史の研究に熱心なりしドイツ軍にして然り。人智の幼稚なるを痛感せずんばあらず。
[#ここで字下げ終わり]
第六 将来戦争の予想
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
一 欧州戦争は欧州諸民族の決勝戦なり。「世界大戦」と称するは当らず。
第一次欧州大戦後、西洋文明の中心は米国に移りつつあり。次いで来るべき決戦戦争は日米を中心とするものにして真の世界大戦なるべし。
二 前述せる戦争の発達により見るときは、この大戦争は空軍を以てする決戦戦争にして、次に示す諸項より見て人類争闘力の最大限を用うるものにして、人類の最後の大戦争なるべし。即ち、この大戦争によりて世界は統一せられ、絶対平和の第一歩に入るべし。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
※[#ローマ数字1、1−13−21] 真に徹底せる決戦戦争なり。
※[#ローマ数字2、1−13−22] 吾人は体以上のものを理解する能わず。
※[#ローマ数字3、1−13−23] 全国民は直接戦争に参加し、且つ戦闘員は個人を単位とす。即ち各人の能力を最大限に発揚し、しかも全国民の全力を用う。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
三 しからばこの戦争の起る時機いかん。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
※[#ローマ数字1、1−13−21] 東亜諸民族の団結、即ち東亜連盟の結成。
※[#ローマ数字2、1−13−22] 米国が完全に西洋の中心たる位置を占むること。
※[#ローマ数字3、1−13−23] 決戦用兵器が飛躍的に発達し、特に飛行機は無着陸にて容易に世界を一周し得ること。
右三条件はほとんど同速度を以て進みあるが如く、決して遠き将来にあらざることを思わしむ。
[#ここで字下げ終わり]
第七 現在に於ける我が国防
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
一 天皇を中心と仰ぐ東亜連盟の基礎として、まず日満支協同の完成を現時の国策とす。
二 国防とは国策の防衛なり。即ち、わが現在の国防は持久戦争を予期して次の力を要求す。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
※[#ローマ数字1、1−13−21] ソ国の陸上武力と米国の海上武力に対し東亜を守り得る武力。
※[#ローマ数字2、1−13−22] 目下の協同体たる日満両国を範囲とし自給自足をなし得る経済力。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
三 満州国の東亜連盟防衛上に於ける責務真に重大なり。特にソ国の侵攻に対しては、在大陸の日本軍とともに断固これを撃破し得る自信なかるべからず。
[#ここで字下げ終わり]
[#底本121頁に「付表第二 近世戦争進化景況一覧表」入る]
[#改ページ]
第二篇 戦争史大観の序説(別名・戦争史大観の由来記)
[#ここから19字下げ]
昭和十五年十二月三十一日於京都脱稿
昭和十六年六月号「東亜連盟」に掲載
[#ここで字下げ終わり]
私が、やや軍事学の理解がつき始めてから、殊に陸大入
前へ
次へ
全80ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
石原 莞爾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング