大し、しかも決戦戦争の要ますます切となって来たドイツが、シュリーフェンの「カンネ」思想を生んだのはこの時代的要求の結果である。
 国民皆兵の徹底が兵力を増大し、人口密度大なる欧州の諸国家では国軍をもって全国境を守備するに足る兵員を得るようになり、遂に迂回を不可能として持久戦争の時代に入ったのである。
 毒ガス、戦車等第一次欧州戦争の末期既に敵正面突破のため相当の威力を示して持久戦争から脱け出そうとあせったが、大戦後は空軍の進歩甚だしく、これに依って敵軍隊の後方破壊と直接軍隊の攻撃に依って敵陣地を突破せんとする努力と、更に進んで敵政治の中心を攻撃する事に依って敵国を屈伏せんとする二つの考えが生じて来、決戦戦争への示唆を与えつつ第二次欧州大戦となった。ドイツは飛行機、戦車の巧妙なる協同に依り敵陣地突破に成功して大陸諸国に対し決戦戦争を遂行した。しかしこれは結局相手国がドイツに対する真剣な準備を欠いたためで、地上兵力に依る強国間の決戦戦争は依然至難と考えられる。
 第二の空軍をもって敵国中心の攻撃に依る決戦戦争は、英、独の間に於ける実験により今日なお殆んど不可能である事を実証した。しかし空軍主力の時代が来れば初めて海も持久戦争の原因とはならない。空軍の徹底的発達がこの決戦戦争を予告し、それも地上作戦でなく敵国中心の空中襲撃に依る事は疑いを入れない。地球の半周の距離にある敵に対し決戦戦争を強制し得る時は、世界最終戦争到来の時である。

   第三章 会戦指導方針の変化

     第一節 会戦の二種類
 戦争の性質に陰、陽の二種あるように、会戦も二つの傾向に分ける事が出来る。
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1 最初から方針を確立し一挙に迅速に決戦を求める。(第一線決戦主義)
2 最初は先ず敵を傷める事に努力し機を見て決戦を行なう。(第二線決戦主義)
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 両者を比較すれば、
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  第一線決戦主義
一、将帥は決戦の方針を確立して攻撃を行なう。
二、第一線の兵力強大、予備は少し。
三、最初の衝撃を最も猛烈に行なう。
四、偶然に支配せらるる事多く奇効を奏するに便なり。
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  第二線決戦主義
一、将帥は会戦経過を見て決戦
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