であるという勇ましい議論も盛んでありましたが、真相が明らかになり、数年来は戦争は長期戦争・総力戦で、武力のみでは戦争の決がつかないというのが常識になり、第二次欧州大戦の初期にも誰もが持久戦争になるだろうと考えていましたが、最近はドイツ軍の大成功により大きな疑問を生じて参りました。
第六節 第二次欧州大戦
第二次欧州大戦では、ドイツのいわゆる電撃作戦がポーランド、ノールウェ―のような弱小国に対し迅速に決戦戦争を強行し得たことは、もちろん異とするに足りません。しかし仏英軍との間には恐らくマジノ、ジークフリートの線で相対峙し、お互にその突破が至難で持久戦争になるものと考えたのであります。
ドイツがオランダ、ベルギーに侵入することはあっても、それは英国に対する作戦基地を得るためで、連合軍の主力との間に真の大決戦が行なわれるだろうとは考えられませんでした。しかるに五月十日以来のドイツの猛撃は瞬時にオランダ、ベルギーを屈伏せしめ、難攻と信ぜられたマジノ延長線を突破して、ベルギーに進出した仏英の背後に迫り、たちまち、これを撃滅し、更に矛《ほこ》を転じてマジノ線以西の地区からパリに迫ってこれを抜き、オランダ侵入以来わずか五週間で強敵フランスに停戦を乞わしめるに至りました。即ち世界史上未曽有の大戦果を挙げ、フランスに対しても見事な決戦戦争を遂行したのであります。しからば、果してこれが今日の戦争の本質であるかと申せば、私は、あえて「否」と答えます。
第一次欧州大戦に於ては、ドイツの武力は連合軍に比し多くの点で極めて優秀でありましたが、兵力は遥かに劣勢であり、戦意は双方相譲らない有様で大体互角の勝負でありました。ところがヒットラーがドイツを支配して以来、ドイツは真に挙国一致、全力を挙げて軍備の大拡充に努力したのに対し、自由主義の仏英は漫然これを見送ったために、空軍は質量共に断然ドイツが優勢であることは世界がひとしく認めていたのであります。今度いよいよ戦争の幕をあけて見ると、ドイツ機械化兵団が極めて精鋭且つ優勢であるのみならず、一般師団の数も仏英側に対しドイツは恐らく三分の一以上も優勢を保持しているらしいのです。しかも英雄ヒットラーにより全国力が完全に統一運用されているのに反し、数年前ドイツがライン進駐を決行したとき、フランスが断然ベルサイユ条約に基づきドイツに一撃を加え
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