。
一国の戦争計画は先ず第一に外交に重きを置き、戦役計画の立案も政治上の顧慮を重視して作戦目標および作戦路を決定し、その作戦実施を将軍に命令する。
攻勢作戦を行なわんとせば先ず巧みに倉庫を設備する。倉庫は作戦を迅速にするためなるべく敵地に近く設くるを有利とするも、我が企図を暴露せざるためには適当に撤退せしめねばならない。
準備成り敵地に侵入した軍は敵軍と遭遇せば、特に有利な場合でなければ決戦を行なう事なく、機動に依り敵を圧迫する事に勉める。会戦を行なうためには政府の指示に依るを通例とする。
両軍相対峙するに至れば互に小部隊を支分して小戦に依り敵の背後連絡線を遮断し、また倉庫を奪い、戦わずして敵を退却せしむる事に努力する。敵の要塞に対してはその守備兵を他に牽制し、要すれば正攻法に依りこれを攻略する。作戦路上にある要塞を放置して遠く作戦を為す事はほとんど不可能とせられた。
[#底本173頁に君主の戦争の表あり]
かくして逐次その占領地を拡大して敵の中心に迫り、この間外交その他あらゆる手段に依り敵を屈伏して有利な講和をすることに勉める。
両軍、要地に兵力を分散しているのであるから一点に兵力を集中してそこを突破すれば良いように考えられるが、突破しても爾後の突進力を欠き、却《かえ》って背後を敵に脅かされて後退の余儀なきに至り、ややもすればその後退の際大なる危険に陥るのである。一七四四年第二シュレージエン戦争に於てベーメンに突進したフリードリヒ大王が、敵の巧妙な機動戦略のため一回の会戦をも交える事なく甚大の損害を蒙って本国に退却した如きはその最も良き一例である。(一八○頁参照)
一八一二年ナポレオンのロシヤ遠征はこれと同一原理に基づく失敗であり、この種の戦争では遊撃戦(すなわち小戦)の価値が極めて大きい。
作戦は通常冬期に至れば休止し、軍隊を広地域に宿営せしめて哨兵線をもって警戒し、この期間を利用して補充、教育その他次回戦役の準備をする。時に冬期作戦を行なう事あるもそれは特殊の事情からするもので、冬期作戦に依る損害は通常甚だ大きい。故に一度敵地を占領して要塞、河川、山地等のよき掩護を欠く時は冬期その地方を撤退、安全地帯に冬営するのが通常である。
ナポレオン以後の戦争のみを研究した人にはなかなか想像もつかない点が多いのである。しかしこの事情をよく頭に入れて置かね
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