になっていた。
 竹のまだ青々した建仁寺垣の結《ゆ》い繞《めぐ》らされた庭の隅には、松や杜松《ひば》に交《まじ》って、斑《ぶち》入りの八重の椿《つばき》が落ちていて、山土のような地面に蒼苔《あおごけ》が生えていた。木口のよい建物も、小体《こてい》に落着きよく造られてあった。笹村は栂《つが》のつるつるした縁の板敷きへ出て、心持よさそうに庭を眺めなどしていた。そして額《がく》を吊ったり、本を並べているお銀や弟を手伝っていたが、書斎と勝手の近いのが、気にかかった。
「これじゃそっちの話し声が耳について、勉強も何も出来やしない。」笹村は机の前に坐りながら言った。
「勤め人の夫婦ものか何かには、持って来いの家だよ。自分一人で住まう気になっているから困る。」
「そうですね。これじゃ……。」と弟も首を傾《かし》げた。
「やッぱり気がつきませんでしたかね。でもあんまり気持のいい家だったもんですから。」
 お銀も気がさして来たが、やはり住み心はよかった。
 木蓮《もくれん》や石榴《ざくろ》の葉がじきに繁って、蒼い外の影が明るすぎた部屋の壁にも冷や冷やと差して来た。ここへ来てから、急に蘇《よみがえ》ったようなお銀は、どうかすると、何事も忘れて半日も、せいせいした顔をして拭き掃除をしているようなことがあった。笹村も庭へ出ては草花|弄《いじ》りなどをして暮した。やがて頭の懈《だる》い夏が来た。
 風呂桶が新たに湯殿へ持ち込まれたり、顔貌《かおかたち》の綺麗な若い女中が傭《やと》い入れられたりした。
「これはおかしい。」
 笹村はそのころから、顔色の勝《すぐ》れない正一の顔を眺めながら、時々気にしていた。次の女の子が、少しずつ愛嬌《あいきょう》づいて来るにつれて、上の子は母親に顧みられなくなった。気むずかしい子供は、時々女中や老人をてこずらせた。
「変な子になりましたね。これを直しておかなけア、大きくなって困りますよ。」
 お銀は呆《あき》れたような顔をして、いじいじした声で泣き出す正一を眺めていた。
「お前たちには、この子供の気質が解らないんだ。」
 笹村はそう言って、傍で気を焦立《いらだ》った。

     六十七

 ある朝お銀がむずかる正一を背《せなか》へ載せて縁側をぶらぶらしていると、笹村は机の前に坐って、苦い顔をして莨ばかり喫《ふか》していた。笹村はしばらく勝手の方とかけ離れた日
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