おりの古いお銀の匂いを、少しでも嗅ぎ出そうとしている笹村は、鋭い目をして、それからそれへとお銀の昔いた家を捜してあるいた。笹村の前には、葱青《あさぎ》、朽葉《くちば》、紺、白、いろいろの講中《こうちゅう》の旗の吊《つ》るされた休み茶屋、綺麗に掃除をした山がかりの庭の見えすく門のある料理屋などが幾軒となくあった。
 そんな通りから離れると、さらに東京の場末にあるような、かなり小綺麗な通りが、どこまでも続いていた。駄荷馬や荷車が、白い埃の立つその町を通って行った。人力車も時々見かけた。町の文明の程度を思わしめるような、何かなしきらきらした床屋があったり、店の暗い反物屋があったりした。冬の薄い日光を浴びて、白い蔵が見えたり、羽目板の赭《あか》い学校の建物が見えたりした。
 笹村の疲れた足は、引き返そう引き返そうと思いながら、いつかそのはずれまで行ってしまった。そこからはまだ寒さに顫《ふる》えている雑木林や森影のところどころに見える田圃面《たんぼづら》が灰色に拡がっていた。
 その白けたような街道では、東京ものらしいインバネスの男や、淡色のコートを着た白足袋の女などに時々|出遭《であ》った。
 笹村はその道をどこまでもたどって行った。

     六十四

 時々白い砂の捲き上る道の傍には、人の姿を見てお叩頭《じぎ》をしている物貰いなどが見えはじめて、お詣《まい》りをする人の姿がほかの道からもちらほら寄って来た。それがだんだん笹村を静かな町の入口へ導いて行った。
 この町にも前に通って来た町と同じような休み茶屋や料理屋などがあったが、区域も狭く人気も稀薄《きはく》であった。不断でもかなりな参詣人《さんけいにん》を呼んでいるそこの寺は、ちょうど東京の下町から老人や女の散歩がてら出かけて行くのに適当したような場所であった。四十から五十代の女が、日和下駄《ひよりげた》をはいて手に袋をさげて、幾人となくその門を潜《くぐ》って行った。中には相場師のような男や、意気な姿の女なども目に立った。
 勝手違いなところへ戸惑いをして来たような気がして、笹村がじきにその境内から脱けて出たころには、風が一層寒く、腹もすいていた。しばらくすると笹村は疲れた体を、ある料理屋の奥まった部屋の一つに構えていた。
 笹村は近ごろの増築らしいその部屋の壁にかかった、正宗やサイダの広告、床の間の掛け物や、瓶に※
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