ずれ今日明日ということでもないでしょうからね。」
お銀は笹村に安易を与えるような調子で言った。
見すぼらしい道具を引き纏めて小石川の方に見つけた、かなり手広な家へ引き移ったのは、それから間もないことであった。それまでに、お銀も一度笹村について、その家を見に行った。そして空《あ》き店《だな》を番している老人に逢って、いろいろの話を取り決めた。
「あんたまだ若い。お子供衆が二人もあるとは思えませんぜ。」
家主は毛糸の衿捲《えりま》きを取って、夫婦に茶を侑《すす》めなどした。
笹村は何よりも、茶の間の方と、書斎や客間の方の隔りのあるのが気に入った。茶の間の方には、茶室めいた造りの小室《こま》さえ附いていた。庭には枝ぶりのよい梅や棕櫚《しゅろ》などがあった。小さい燈籠《とうろう》も据えてあった。
そこへ落ち着いて、広い座敷に寝た笹村は旅にいるような心持がした。
笹村が前の家から持って来た萩《はぎ》の根などを土に埋《い》けていると、お銀は外へ長火鉢などを見に出て行った。古い方は引っ越すとき屑屋《くずや》の手に渡ってしまった。
「いくら何でも、こんなものはきまりがわるくて持ち出せやしませんわ。」
お銀は落しのおちたその古火鉢を眺めながら、何もかまわない笹村に不足を言った。それでも手放すには、あまりいい気持はしなかった。拭くのも張合いのないその抽斗《ひきだし》の底には、どうなるか解らなかった母子の身の上を幾度となく占《うらな》った古い御籤《みくじ》などが、いまだに収《しま》ってあった。
笹村は座敷の方に坐っているかと思うと、また落着きもなく勝手の方へ来て、少し高くなった四畳半の小室の方へやって来て、丸窓の下に寝転んだり、飛び石の多い庭へ下り立って見たりした。日によって庭にはどうかすると、砲兵工廠から来る煙が漲《みなぎ》り込んで、石炭|滓《かす》が寒い風に吹き寄せられて縁の板敷きに舞っていた。そんな日にはきっと空が曇って、棕櫚や竹の葉がざわざわと騒がしかった。笹村の頭も重苦しかった。
「これじゃしようがない。」
お銀は時々障子を開けて見ながら呟いた。
「それにこの家の厠《はばかり》の位置が、私何だか気に喰いませんよ。」
人殺しをしたある兇徒《きょうと》の妾《めかけ》が、ここにいたことがあるという話が、近所の人の口から、お銀の耳へじきに入った。
「そうさ、お前には
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