めて来たとき、玄関へ出て来た子供を見たおりの深山の顔から、そんな意味も読めば読めぬことはないような気がしていた。
「深山は正一を、磯谷の子だと思ってでもいたんだろう。」
 笹村はその時も、お銀に話したが、お銀にはその意味が、適切に通じないらしかった。
 お銀が蒼い顔をして、笹村の部屋の外へ来て、心寂しそうに衿《えり》を掻き合わせながら坐ったのは、大分経ってからであった。
「……あなたにもお気の毒ですから、方法さえつけば、私だってどうしても置いて頂かなければならないというわけでもないのでございます。だけど、さアといって、今が今出るということにもならないものですから……。」
 お銀はいつもの揶揄面《からかいづら》とまるで違ったような調子で、時々|応答《うけこたえ》をするのであったが、今の場合双方にその方法のつけ方のないことは、よく解っていた。
「とにかく僕はお前を解放しようと思う。今までにそうならなければならなかったのだ。」
「ですから、あなたも深山さんとよく御相談なすったらいいでしょう。」
 お銀はそうも言った。

     六十

 笹村の興奮した神経は、どこまで狂って行くか解らなかった。どうすることも出来ないほど血の荒立って行く自分を、別にまた静かに見つめている「自分」が頭の底にあったが、それはただ見つめて恐れ戦《おのの》いているばかりであった。口からは毒々しい語《ことば》がしきりに放たれ、弛《ゆる》みを見せまいとしている女のちょっとした冷語にも、体中の肉が跳《と》びあがるほど慄《ふる》えるのが、自分ながら恐ろしくも浅ましくもあった。そんな荒い血が、自分にも流れているのが、不思議なくらいであった。
「とてもあなたには敵《かな》いません。」
 そう言って淋しく笑う女も、傷《て》を負った獣のように蒼白い顔をして、笹村の前に慄えていた。骨張った男の手に打たれた女の頭髪《かみ》は、根ががっくりと崩れていた。爛《ただ》れたような目にも涙が流れていた。女はそれでも逃げようとはしなかった。
「ほんとに妙な気象だ。私が言わなくたって、人がみんなそう言っていますもの。」
 女はがくがくする頭髪を、痛そうに振り動かしながら、手で抑《おさ》えていた。
 笹村が、ふいに手を女の頭へあげるようなことは、これまでにもちょいちょいあった。寝ている女の櫛《くし》をそっと抜いて、二つに折ったことな
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