でもだもだと頭を悩ましていることが多かった。そうして気が結ぼれていると、苦しい頭が狂い出しそうになった。
五十七
そんな周囲の事情は、お銀のちょっとした燥《はしゃ》いだ口の利き方や、焦《いら》だちやすい動物をおひゃらかして悦《よろこ》んでいるような気軽な態度を見せられるたんびに、笹村をして妻を太々しい女のように思わしめた。そして圧《お》し潰されたような厭な気分で、飯を食いに出るほかは、狭い檻《おり》のような自分の書斎のなかに、黙って閉じ籠ってばかりいた。笹村の臆病な冷たい目は、これまでに触れて来た女の非点《あら》ばかりを捜して行った。
朝の食膳に向っている時、そうして張り合っている不快な顔の筋肉が、ふとくすぐられるような弛《ゆる》びを覚えて、双方で噴飯《ふきだ》してしまうようなことはこれまでにめずらしくなかったが、このごろの笹村の嫌厭《けんえん》の情は妻のそうした愛嬌《チャーム》を打ち消すに十分であった。
笹村の目には、これまでにない醜い女が映って来た。そしてそれを見つめている苦しさに堪えられなかったが、お銀の頭にも、夫婦間に迫っている危機が感ぜられた。そして時々自分の前途を考えないわけに行かなかった。
茶の室《ま》で、怯《おび》えたようなお銀が蔭でそっと差図して拵えさした膳に向って、母親の給仕で飯を食うのが苦しくなって来ると、笹村はそれを書斎の方へ運ばした。そして独りで寂しい安易な晩飯を取った。夜も冷や冷やする寝床のなかで、やっとうとうとしかけた眼がふと覚めると、痛いほど疲れた頭が興奮して来た。笹村はランプの心を挑《か》き立てて、時々蒲団のうえに起き直った。そして本など拡げて、重苦しい頭を慰《いや》そうとあせるのであったが、性のよくない目は、刺すような光に堪えられないほど涙がにじみ出して来た。呼吸《いき》も苦しかった。
笹村は、よく夜更《よなか》に寂しい下宿の部屋から逃れて、深い眠りに沈んでいる町から町を彷徨《さまよ》い、静かな夜にのみ蘇生《よみがえ》っている、深山の書斎の窓明りを慕うて行ったころのことを思い出していた。そして、しらしらした夜明け方に、語りくたびれて森や池の畔《はた》を歩いていた二人の姿を考えた。
笹村は、触る指頭《ゆびさき》にべっとりする額の脂汗《あぶらあせ》を拭いながら、部屋を出て台所へ酒や食べ物を捜しにでも行くか、お
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