れど、先生お土産をおいて行つたらしんだ。」
私は有るべきことが、有るやうに在るのだと思つた。
「成程ね。」
「よく有ることだがね。」毛利氏も苦笑したが、
「そこで何うするかね、こいつあ能く相談して取決めべきことだけれど、あの細君の身の振方もだが、何よりもサクラさんのことだ。細君は自分で持つていく積りでゐるらしいんだが……。」
サクラは此の前の細君の子であつた。
話が後々のことに触れて行つた。
六
三日目に、告別式がお寺で行はれた。寺はK―や私に最も思出の深い、横寺町にあつた。
K―と私とは、むかしこの辺を、朝となく夕となく一緒に歩いたときの気持を取返してゐた。生温るい友情が、或る因縁で繋つてゐて、それから双方の方嚮に、年々開きが出て来たところで、全然相背反してしまつたものが、今度は反動で、ぴつたり一つの点に合致したやうに――それはしかし、考へてみれば、何うにもならないことが、余儀ない外面的の動機に強ひられた妥協的なものだともいへば言へるので、いつ又た何んな機会に、或ひは自然に徐々に、何うなつて行くかは、容易に予想できないといふ不安が、全くない訳ではなかつたけれど、
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