霧ヶ峰から鷲ヶ峰へ
徳田秋聲

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)霧《きり》ヶ峰《みね》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)東|餅屋《もちや》まで

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)じめ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

 今年は何の意味にもハイキングに不適当である。平原のハイキングならまだしもだが、少くとも山岳の多い日本でのハイキングに或る程度山へ入らなければ意味を成さないのに、今年のやうにかうじめ/\した秋霖が打続いたのでは、よほど運が好くなければハイキングの快味を満喫するといふ訳には行かない。雨降りだと、雲煙が深く山を封してゐるから、折角山へ入つても山を見ることはできず、よほど厳重な雨支度をしてゐない限り、からだはびしよ濡れになつて、大概の人は風邪をひいてしまふ。私の場合はそれほどでもなかつたけれど、しかし不断の銀座散歩と少しもかはらぬ軽装で出かけたので、三里弱の山坂を登つて霧《きり》ヶ峰《みね》のヒユッテへ著いた時分には、靴も帽子もびしよ/\でヒユッテの風呂と炬燵で暖まら
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