風呂桶
徳田秋声

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)寂《さび》しかつた

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)結構|脱《のが》れて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「りっしんべん+兄」、第3水準1−84−45]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いら/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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 津島はこの頃何を見ても、長くもない自分の生命を測る尺度のやうな気がしてならないのであつた。好きな草花を見ても、来年の今頃にならないと、同じやうな花が咲かないのだと思ふと、それを待つ心持が寂《さび》しかつた。一年に一度しかない、旬《しゆん》のきまつてゐる筍《たけのこ》だとか、松茸《まつたけ》だとか、さう云ふものを食べても、同じ意味で何となく心細く思ふのであつた。不断散歩しつけてゐる通りの路傍樹の幹の、めきめき太つたのを見ると、移植された時からもう十年たらずの歳月のたつてゐることが、またそれだけ自
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