が目についた。お庄は入口の方に坐って、しばらくぼんやりしていた。
「あんたも来て手伝って頂戴。」
女は骨盤の押し開いたような腰つきをして、片隅に散らかったものを忙しそうに取り纏《まと》めていた。
お庄は気爽《きさく》に返事をして、急いで傍へ寄って行った。
その晩から、お庄は衆《みんな》に昵《なじ》んだ。
二十五
正雄がある朝十時ごろに、一《いち》の家《や》を訪ねて行くと、お庄は半襟《はんえり》のかかった双子《ふたこ》の薄綿入れなどを着込んで、縁側へ幾個《いくつ》も真鍮《しんちゅう》の火鉢を持ち出して灰を振《ふる》っていた。お庄が身元引受人に湯島の主婦《あるじ》を頼みに行ったとき、主婦はニヤニヤ笑って、
「お前そんなことをしてもいいだかい。自分の娘のことじゃないから、私はまア何とも言わないが、長くいるようじゃダメだぞえ。」と、念を押しながら判を捺《お》してくれた。
お庄は二日ばかりの目見えで、毎日の仕事もあらまし解って来た。家の様子や客の風も大抵|呑《の》み込めた。どこのどんな家のものだか知れないような女連の中に交じって立ち働くのも厭なようで、自分にもそれほど気が
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