脱けて、足元の暗い段梯子を降りて行った。
二十三
「おや厭だぞえ、誰かと思ったらお庄かい。」
段梯子の下に突っ立っていながら、目の悪い主婦《かみさん》は、降りて来るお庄の姿を見あげて言った。お庄は牡丹の模様のある中形《ちゅうがた》を着て、紅入《べにい》り友禅《ゆうぜん》の帯などを締め、香水の匂いをさせていた。揉揚《もみあ》げの延びた顔にも濃く白粉を塗っていた。
「お前今ごろ何しに来たえ。塩梅《あんばい》でも悪いだか。」
主婦《かみさん》は帳場のところへ来てお辞儀をするお庄のめっきり大人びたような様子を見ながら訊いた。
お庄はそこにあった団扇《うちわ》で、熱《ほて》った顔を煽《あお》ぎながら、畳に片手を突いて膝を崩《くず》していた。
「これがお茶屋に行かずかと言いますがどんなもんでござんすら。」と母親が大分経ってから、おずおず言い出したとき、主婦《かみさん》はお庄の顔を見てニヤリと笑った。
「そろそろいい着物でも着たくなって来たら、そして先アどこだえ。」
「何だか浅草に口があるそうで……。」
主婦は詳しくも聞かなかった。そこへ客が入り込んで来たりなどして、話がそれぎ
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