心持で、勝手口の側《わき》の鉄の棒の嵌《はま》った出窓に凭《もた》れて路次のうちを眺めていた。するうちに外はだんだん暗くなって来た。一日曇っていた空もとうとう雨になりそうで、冷たい風は向うの家の埃《ほこり》ふかい廂間《ひさしあい》から動いて来た。
お庄はじれったいような体を、窓から引っ込めて行くと、自分たちの荷物や、この家の我楽多《がらくた》の物置になっている薄暗い部屋へ入って、隅の方に出してある鏡立ての前にしゃがんだ。ふと呼鈴《よびりん》がけたたましく耳に響いた。茶の間へ出て行くと、今店の方から来たばかりの小僧が一人、奥へ返辞もしないで、明るい電燈の下で、寝転んで新聞を読んでいた。お爨《さん》は台所で、夕飯の後始末をしていた。
「お前さんちょっと行ってくれたってもいいじゃないの。」
お庄は小僧に言いかけて、手で臀《しり》のあたりを撫《な》でながら、奥の方へ行った。奥は四、五日|甲高《かんだか》な老人の声も聞えなかった。内儀《かみ》さんは、時々二階へあがって、そこで一人かけ離れて冬物を縫っているお針の傍へ行ったり、物置の方へ物を捜しに行ったりして、日を暮した。お鳥に聞かされるいろい
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