るくなった。人の影もちらほら見えていた。ぐっしょり雨に濡れたお庄は、灯影を避けるようにして、揚場《あげば》の方へ歩いて行った。
湯島の家へ着いたのは、もう九時ごろであった。元町の水道の傍《わき》を通るとき、すれすれに行き違った背の低い男が一人あった。お庄は傘の下から、ふっと顔を出すと人家の薄明りに、ちらと見えた白いその男の顔が、芳太郎であることに気がついた。お庄は息が塞《つま》るような心持で、急いで堤《どて》について左の方へ道を折れた。店屋の立て込んだ狭い町まで来た時、お庄は冷や汗で体中びっしょりしていた。
湯島の家では、衆《みんな》が入口まで出て来て、異《ちが》ったお庄の姿や、真蒼《まっさお》なその顔を眺めた。お庄は上り口でインバネスを脱ぐと、がっかりした体を這《は》うようにして流しの方へ出て行った。
「芳が今ここへ俥で駆けつけ尋ねて来たぞえ。」伯母はお庄の顔を見るなり、言い出した。
「やっぱりそうでしょう。」と、お庄は呼吸《いき》がはずんで、口が利けなかった。
その晩は早くから戸を締めた。
母親が、二、三日前から余所《よそ》へ手伝いに行っていることが、伯母の話で解った。その
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