、芳太郎はこれまでのように朝寝をしていることも出来なかった。
 店の忙《せわ》しいとき、芳太郎は夜おそく帰るような日が二、三日続いた。
 お庄は押入れの行李のなかに残っていたものを、萌黄《もえぎ》に唐草《からくさ》模様の四布《よの》風呂敷に包んで、近所からやとって来た俥に積み、自分もそれに乗って、晩方中村の邸を出た。
 大雨がざあざあ降っていて、外は真暗であった。中村はちょうど留守であったし、広い茶の室《ま》で晩飯の餉台《ちゃぶだい》に就いている細君も老人《としより》もそんな荷を持ち出したことに気がつかなかった。荷の中には、鏡台のような稜張《かどば》った物もくるまれてあった。お庄は自分の部屋の縁側から、ばしばし雨滴《あまだ》れのおちる廂際《ひさしぎわ》に沿《つ》いて、庭の木戸から門までそれを持ち出さなければならなかった。夜具などは後でどうでもなると思ったが、少しばかりの軟かい着替えや手廻りの物を、芳太郎の目の前に遺《のこ》しておくのは不安心であった。
「阿母さんの手隙《てすき》に洗濯や縫直しをしてもらいたいものがありますから。」と、お庄はそんなにびくびくすることもないと思ったので、荷を
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