にした。家からも、中村の家へ持ち運ぶように見せかけて、少しずつ取り出すことを怠らなかった。中には以前磯野から受け取った手紙を封じ込んだ背負《しょ》い揚《あ》げや、死んだ叔母から伝わった歌麿《うたまろ》の絵本などがあった。その絵本を、ほかの物と一つに、お庄は磯野と質に入れたこともあったが、芳太郎のところへ来てから間もなく、やっと取り出すことが出来た。お庄はその値打ちのものだということを、磯野に聴いて知っていた。
「まかり間違って、茨城にいるお照さんのところへ訪ねて行くにしても、これを売りさえすれば旅費ぐらいは出来る。」
お庄は中村や芳太郎の手からのがれたとき、切迫《せっぱ》つまって来れば、自分はどこへ行く体か解らないと思った。そして、その方がどんなに自由だか知れないとも考えた。
お庄は箪笥の底から持ち出して、従姉《あね》の家へその絵本の入った手匣《てばこ》を持ち込む時も、そっと中から出して、黴《かび》くさい絵を従姉に見せながら、その値踏みなどをしてもらった。
八十五
「そう毎日ぶらぶら遊んでばかりいるのが、大体よろしくない。」世話好きな中村は、会社から退《ひ》けて来ると
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