なって、涙が湧《わ》き立つようににじみ出て来た。
 磯野の目にも涙が溜っていた。
「どうして来たんです。」と、お庄はめずらしくチョッキに金鎖などを光らせている男の様子を見ながら、大分経ってから、やっと口を利くことが出来た。ここへ来るためにわざわざこんな身装《みなり》を拵えたのであろうと、お庄はしっくり体に合っていない洋服などがおかしかった。
「僕は実に悪いことをした。お庄ちゃんにも済まなかった。」と磯野は気弱そうな調子で言い出した。
 お庄がここへ来たことが、磯野の耳に伝わった時分には、お増はもう天神下の家にもいられなかった。磯野も、時の機《はずみ》でしたことが振り顧って見られたし、お増にも、始終変ってゆく男の心の頼みがたいことが解って来た。学資もろくろく送ってもらえなくなっていた磯野を世に出すまでには、また新しい苦労も重ねなければならぬということも考えられた。
 碁会所の若い娘と一緒に歩いている芳村の姿を、天神の境内で見たとき、お増は芳村に鼻を明かされたような気がした。
「芳村さん、あなたは随分ね。」と、お増はその時追い縋《すが》るようにして芳村の後から声かけた。
 芳村は黙って行き
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