またお鳥目《あし》を持ち出すといけないから。」と、お袋にそう言われて、お庄は店の方へ来て坐っていた。
 爺《じい》さんは二、三日東京へ出ていて、留守であった。お庄が帰って来る前に、母子三人のあいだに大揉《おおも》めがあって、お袋も爺さんに頭脳《あたま》をしたたか撲《なぐ》られた。お庄には深い事情の解りようもなかったが、牛込の自分の弟のところに母子厄介《おやこやっかい》になっている親爺《おやじ》の添合《つれあ》いや子供のことから、時々起る紛紜《ごたくさ》が、その折も二人の間に起っていた。お庄が四ツ谷へ行ッったきり帰らなかったことも一つの問題であった。芳太郎がそのことで暴れ出して、二人に突っかかって行ったのが、一層騒ぎを大きくした。
 お庄が帰って来た時分には、家がひっそりしていた。お袋は頭が痛むと言って結び髪のまま氷袋をつけて奥で寝ていたし、芳太郎もそこらで自暴酒《やけざけ》を飲んで行《ある》いて家へ寄りつきもしなかった。
 奥の客座敷で、お庄は年増の女中からその話を聞いて、体がぞくぞくするほど厭であった。お庄を速く呼び還《かえ》せと言って、芳太郎がお袋と長いあいだ捫着《もんちゃく》した
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