、自分ら夫婦は早晩商売を若夫婦に譲り渡して、この春建てた裏の離房《はなれ》へ別居してしまいたいということであった。自分が来て世話を焼くようになってから、メキメキ商売が繁昌《はんじょう》するようになったという自慢話も出ていた。
 婆さんが媒介人《なこうど》と一緒に、いい機嫌で帰って行ってから、従姉《あね》は鬱陶《うっとう》しい顔をして、茶の室《ま》へ出て来た。浅山は手酌で、まだそこに飲んでいた。
「どうだお庄さん行って見るかね。己《おれ》のような安官員のところなぞへ行って、年中ぴいぴいしてるよりか、どのくらい気が利いているか知れないよ。」浅山は景気づいて言い出した。浅山がなにかにつけて、始終|実姉《あね》の家の厄介《やっかい》になっていることは、お庄も従姉《あね》の愚痴談《ぐちばなし》で知っていた。
「腰弁当こそ駄目よ。」と、従姉《あね》もそうけ立った頭髪《あたま》を押えながら呟いた。
「お庄の前祝いに、私も一つ頂きましょうかね。」と、酒ずきな伯母が傍から浅山に猪口を催促した。
 お庄は伯母にも愛想よく酌をしてやったが、まだそこまで気が進んでいなかった。

     六十九

 婚礼の日
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