立てては、お庄の身につく物を買おうとした。そのたびに叔母はいい顔をしなかった。
話に疲れると病人は、長い溜息を吐いて、水蒸気の立つ氷枕に、痺《しび》れたような重い頭顱《あたま》を動かした。
「私も永いあいだ、世帯の苦労ばかりして来て、今死んで行っては真実《ほんとう》につまらない。」叔母は唸るように独り語《ごと》を言った。
お庄は心から憎いと思って、その顔を眺めた。
部屋に電気がついてから間もなく、叔母の母親が幸さんに連れられてやって来た。母親は五十五、六の背の高い女であった。田舎にしては洒落《しゃれ》た風をしているのが、まずお庄の目に着いた。
「私もこんな体になってしまってね。」と叔母は母親の顔を見ると、めそめそと泣き出した。
母親の優しい小さい目にも、一時に涙が湧《わ》き立った。そして何にも言わずに、手巾《ハンケチ》で面を抑《おさ》えた。お庄も傍で目を曇《うる》ませながら、擽《くすぐ》ッたいような気がした。
四十四
「私は、それじゃお庄さんに後をお願い申して、ちょっと髪を結いに帰って来ますわね。」と、洒落ものの母親は、来た晩から気にしていた小さい丸髷《まるまげ》
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