の方に束《つく》ねてあった。叔母は赤い目縁《まぶち》をして、お庄が上って行っても、口も利かなかった。その晩叔父は按摩《あんま》などを取って、宵のうちから寝床へ入った。お庄らも、早く戸締りをして寝かされた。
その翌日の今朝、叔父は早めに社の方へ出て行った。朝飯の時、お庄が洲崎へ迎えに行った話が初めて出て、衆《みんな》は大笑いした。
叔父が出て行くと、叔母はまたせッせと体を動かしていたが、長く続かなかった。涼しいところへ枕を移しては、寝臥《ねそべ》っていた。
お庄は目につかぬほどの石炭の滓《おり》のついた、白い洗濯物に霧を吐きかけては、皺《しわ》を熨《の》しはじめた。雨はじきに霽《あが》って、また暑い日が簾《すだれ》に差して来た。
「お庄ちゃん、私氷が飲みたいがね。」と、叔母は傍から唸《うな》った。
お庄は洗濯ものに押しをしておいて、それから近所の氷屋へ走った。
氷が来た時分に、表から風の吹き通す茶の間の入口の、簾屏風《すだれびょうぶ》の蔭に眠《ね》ていた正雄も、やっと目を覚ましかけて来た。正雄はそのころ、叔父の知っている八重洲河岸《やえすがし》の洋服屋へ行っていた。東京で一番古
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