、芳太郎に何か叱言《こごと》を言いながら言った。
芳太郎はまだ庭で鶏《とり》を折打《せっちょう》していた。鶏は驚きと怖れに充血したような目をして、きょときょとと木蔭をそっちこッち遁《に》げ廻った。木の下や塀の隅はもう薄暗くなっていた。芳太郎は竿でその鶏をむやみに逐《お》い廻していた。そこへ洋服姿の主《あるじ》が、縁から降りて来たのであった。
二人で鶏を鶏舎《とや》へ始末をしてから、縁側の方へ戻って来ると、中村は愚かしい芳太郎に、いつも言って聞かせるようなことを、また繰り返した。
「まさか労働するわけにも行くまいが、何しろ若いものが遊んでいてはいけない。体が怠けるばかりだ。お神に堅くなったという証拠を見せるつもりで、一時こういうところへ出てみてはどうかね。」と、中村はその時自分の知っている通運会社のことを言い出した。
芳太郎は荒い息をしながら、縁に腰かけて黙って莨《たばこ》を喫《ふか》していたが、するうちに手拭や石鹸《せっけん》を持ち出して湯に行った。
お庄や細君――女連は土台の腐れた古い湯殿で毎日行水を使うことになっていた。
麹町《こうじまち》の方の会社へ出るようになってから、芳太郎はこれまでのように朝寝をしていることも出来なかった。
店の忙《せわ》しいとき、芳太郎は夜おそく帰るような日が二、三日続いた。
お庄は押入れの行李のなかに残っていたものを、萌黄《もえぎ》に唐草《からくさ》模様の四布《よの》風呂敷に包んで、近所からやとって来た俥に積み、自分もそれに乗って、晩方中村の邸を出た。
大雨がざあざあ降っていて、外は真暗であった。中村はちょうど留守であったし、広い茶の室《ま》で晩飯の餉台《ちゃぶだい》に就いている細君も老人《としより》もそんな荷を持ち出したことに気がつかなかった。荷の中には、鏡台のような稜張《かどば》った物もくるまれてあった。お庄は自分の部屋の縁側から、ばしばし雨滴《あまだ》れのおちる廂際《ひさしぎわ》に沿《つ》いて、庭の木戸から門までそれを持ち出さなければならなかった。夜具などは後でどうでもなると思ったが、少しばかりの軟かい着替えや手廻りの物を、芳太郎の目の前に遺《のこ》しておくのは不安心であった。
「阿母さんの手隙《てすき》に洗濯や縫直しをしてもらいたいものがありますから。」と、お庄はそんなにびくびくすることもないと思ったので、荷を
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