な調子で、真面目に言い出した。
「それもおかしいでしょう。家は今少しごたごたしているんですよ。」と、お庄は遊《あそ》び人《にん》肌《はだ》のようなところのある芳太郎を、磯野に見らるるのも厭であった。
日が蔭《かげ》りかかる時分に、磯野はやっと帰って行った。
お庄が帳場へ勘定をしに行った時、いつの間にか起き出して、庭の植木に水をやっていた芳太郎が、橋廊下の下の方にたたずんで、莨を喫《ふか》しながらうッとりした顔をしていた。廊下に雑巾《ぞうきん》がけをしていた年増の方の女中が、手を休めて手擦りに凭《もた》れながら、芳太郎と何やら話しているところであった。
「お客さまはもうお帰りですか。」と、女中は落ちかかった着物の裾を帯の間へ押し込んで、また働きはじめた。西日を受けた廊下の板敷きは、砂埃でざらざらしていた。
「ちょいと勘定なんですがね。」と、お庄は立ち停って、芳太郎に声かけた。
帳場へ上って来た芳太郎の目には不安の色があった。
「お前にあんな親戚があるなんて、何だかおかしいじゃないか。」と、芳太郎は書付けを書きはじめながら詰《なじ》った。
「私にだって親類がありますよ。」と、お庄は顔を赧《あか》めながら言った。
「それじゃお前の何に当る人だ。」
お庄はへどもど[#「へどもど」に傍点]して、もう口が利けなかった。目にも涙が出た。
「お前の親類が、座敷へあがって酒を飲むなんて、変じゃないか。」
「え、だから皆さんにもお目にかかるって、そう言ったんですけれど、阿母さんは加減がわるいし、あなただって、今まで寝《やす》んでいらしったじゃありませんか。またそれほど近しい親類でもないんですもの。あの人が思いがけなくここを通って、ちょっと寄ったまでなんです。」
「うまく言ってら。四ツ谷へ行って聞いて見るからいいや。」
「え、いいんですとも。私そんな嘘なぞ吐《つ》きゃしませんよ。」
しばらく言い合ったが、お庄は秘《かく》し逐《おお》せないような気がした。そして袂《たもと》で顔ににじみ出る汗を拭きながら、黙って裏口の方へ出て行った。
女中に呼びに来られて出て行った時分には、磯野は書付けを前に置いて、座敷にぼんやりしていた。お庄は目に涙を一杯溜めていた。
「どうかしたの。」と、磯野は薄笑いをしていた。しばらくしてから、勘定が足りなくて、磯野のもじもじしていることが解った。
「勘定
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