くつ》になってこうして立働きもしなければならぬという愚痴が、じきに始まった。
「私が寝てばかりいるもんだから、浅山にも気の毒でね。」と、従姉《あね》も萎《しお》れて言った。
 浅山が、今の役所を罷《や》めて、今度の帰朝を幸いに姉婿の方へ使ってもらう運動をしているのだが、それがうまく行きそうにもない様子が、母子《おやこ》の口から洩れた。
 お庄は伯母と従姉《あね》が、着るものを着ないでも、膳の上にうまいものの絶えたことのないのを知っていた。伯母が浅山と同じに、刺身などに箸をつけながら、ちびちび晩酌をやっていることもめずらしくなかった。お庄はこの人たちの貧乏するのに不思議はないと思った。
「……少し媒介人《なこうど》に瞞《だま》されたようですよ。」と、お庄は帯の間から莨入れを取り出して、含嗽莨《うがいたばこ》をふかしながら言い出した。
「始終家が揉《も》み合っているものですし、あの人だってちっとも柔順《おとな》しかありませんよ。」
「それでもいい男だという話じゃないかえ。――酒癖でも悪いと言うのかい。」と、伯母は切り髪頭の、長い凋《しな》びた顔を顰《しか》めながら言った。
 お庄は思っていることを、話すことも出来なかった。
 芳太郎を嫌っているお庄の心持は、従姉《あね》によく解った。
「老人《としより》の思うようじゃないんですよ。」と、従姉《あね》は、お庄の顔をじろじろ眺めながら、薄ら笑いをしていた。
「でもまア辛抱していさえすれば、あの家も始終はお前たち夫婦のものだでね。」
「そうは言っても、欲ばかしにかかってもいられませんよ伯母さん。」
 鮨《すし》を少しばかりおごって、茶呑み話にごまかしていながら、お庄はしみじみした話もしずに、やがてそこを出た。
「浅山から、中村さんによく話してもらって上げるからね、自棄《やけ》を起さないで、まア当分辛抱した方がいいでしょう。」
 帰りがけに、従姉《あね》はお庄の様子を気遣いながらそう言った。お庄がお照の稼《かせ》ぎに行っている茨城の方へでも行けば、自分の体一つぐらいは、自分の腕一つで、どうにでもして行けると言ったことが、従姉《あね》にも気にかかった。
「今夜は家へお帰りよ。心配さしても悪いでね。」と、伯母も門口まで送って出ながら行った。
 外はもう更けていた。そこらの芸妓屋や、劇場の居周《いまわ》りも静かであった。お庄は暗い町を
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