しれないのであった。気の弱い彼女は、すべて古めかしい叔母の意思どおりにならせられてきた。
「私の学校友だちは、みんないいところへ片づいていやはります」彼女はそんなことを考えながらも、叔母が択《えら》んでくれた自分の運命に、心から満足しようとしているらしかった。
「ここの経済は、それでもこのごろは桂さんの収入でやっていけるのかね」私はきいた。
「まあそうや」雪江は口のうちで答えていた。
「お父さんを楽させてあげんならんのやけれどな、そこまではいきませんのや」彼女はまた寂しい表情をした。
「どのくらい収入があるのかね」
「いくらもありゃしませんけれどな、お金なぞたんと要らん思う。私はこれで幸福《しあわせ》や」そう言って微笑していた。
 もっと快活な女であったように、私は想像していた。もちろん憂鬱《ゆううつ》ではなかったけれど、若い女のもっている自由な感情は、いくらか虐《しいた》げられているらしく見えた。姙娠という生理的の原因もあったかもしれなかった。
 桂三郎は静かな落ち着いた青年であった。その気質にはかなり意地の強いところもあるらしく見えたが、それも相互にまだ深い親しみのない私に対する一
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