て互いに健康を祝しあいながら町を歩いたのであった。
終点へ来たとき、私たちは別の電車を取るべく停留所へ入った。
「神戸は汚《きたな》い町や」雪江は呟いていた。
「汚いことありゃしませんが」桂三郎は言った。
「神戸も初め?」私は雪江にきいた。
「そうですがな」雪江は暗い目をした。
私は女は誰もそうだという気がした。東京に子供たちを見ている妻も、やっぱりそうであった。
「今度来るとき、おばさんを連れておいんなはれ。おばさんが来られんようでしたら、秀夫さんをおよこしやす。どないにも私が面倒みてあげますよって」彼女はそんなことを言っていた。
「彼らは彼らで、大きくなったら好きなところへ行くだろうよ」
「それあそうや。私も東京へ一度行きます」
私たちはちょっとのことで、気分のまるで変わった電車のなかに並んで腰かけた。播州人《ばんしゅうじん》らしい乗客の顔を、私は眺めまわしていた。でも言葉は大阪と少しも変わりはなかった。山がだんだんなだらかになって、退屈そうな野や町が、私たちの目に懈《だる》く映った。といってどこに南国らしい森の鬱茂《うつも》も平野の展開も見られなかった。すべてがだらけきって
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