Y氏に桂三郎を紹介することを、兄に約しておいたが、桂三郎自身の口から、その問題は一度も出なかった。彼が私の力を仮りることを屑《いさぎ》よしとしていないのでないとすれば、そうたいした学校を出ていない自分を卑下しているか、さもなければその仕事に興味をもたないのであろうと考えられた。私には判断がつきかねた。
「雪江はどうです」私はそんなことを訊ねてみた。
「雪江ですか」彼は微笑をたたえたらしかった。
「気立のいい女のようだが……」
「それあそうですが、しかしあれでもそういいとこばかりでもありませんね」
「何かいけないところがある?」
「いいえ、別にいけないということもありませんが……」と、彼はそれをどういうふうに言い現わしていいか解らないという調子であった。
 が、とにかく彼らは条件なしの幸福児《しあわせもの》ということはできないのかもしれなかった。
 私は軽い焦燥を感じたが、同時に雪江に対する憐愍《れんびん》を感じないわけにはいかなかった。
「雪江さんも可哀そうだと思うね。どうかまあよくしてやってもらわなければ。もちろん財産もないので、これからはあなたも骨がおれるかもしれないけれど」私は言
前へ 次へ
全21ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング