たる船を捜したけれど、なかった。私たちは明石の町をそっちこっち歩いた。
 人丸山《ひとまるやま》で三人はしばらく憩《いこ》うた。
「あすこの御馳走が一番ようおましゃろ」雪江は言っていた。

 私たちは海の色が夕気《ゆうけ》づくころに、停車場を捜しあてて汽車に乗った。海岸の家へ帰りついたのは、もう夜であった。
 私はその晩、彼らの家を辞した。二人は乗場まで送ってきた。蒼白い月の下で、私は彼ら夫婦に別れた。白いこの海岸の町を、私はおそらくふたたび見舞うこともないであろう。



底本:「日本文学全集 8 徳田秋声集」集英社
   1967(昭和42)年11月12日発行
初出:「サンエス」
   1920(大正9)年7月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:岡本ゆみ子
校正:米田
2010年4月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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