てお作は早産のことなど話そうとしたが、夫人は気忙しそうに、「マアゆっくり遊んでおいで。」と言い棄てて奥へ入った。
 しばらく女中と二人で、子供をあっちへ取りこっちへ取りして、愛《あや》していた。子供は乳色の顔をして、よく肥っていた。先月中小田原の方へ行っていて、自分も伴《とも》をしていたことなぞ、お竹は気爽《きさく》に話し出した。話は罪のないことばかりで、小田原の海がどうだったとか、梅園がこうだとか、どこのお嬢さまが遊びに来て面白かったとか……お作は浮《うわ》の空で聞いていた。
 外へ出ると、そこらの庭の木立ちに、夕靄《ゆうもや》が被《かか》っていた。お作は新坂をトボトボと小石川の方へ降りて行った。

     三十七

 帰って見ると、店が何だか紛擾《ごたごた》していた。いつもよく来る、赭《あか》ちゃけた髪の毛の長く伸びた、目の小さい、鼻のひしゃげた汚い男が、跣足《はだし》のまま突っ立って、コップ酒を呷《あお》りながら、何やら大声で怒鳴っていた。小僧たちの顔を見ると、一様に不安そうな目色をして、酔漢《よっぱらい》を見守っている。奥の方でも何だかごてついているらしい。上り口に蓮葉な脱ぎ
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