こい》れを抜いて莨を吸い出した。
 「君の評判は大したもんですぜ。」と和泉屋は突如《だしぬけ》に高声《たかごえ》で弁《しゃべ》り出した。「先方《さき》じゃもうすっかり気に入っちゃって、何が何でも一緒にしたいと言うんです。」
「冷評《ひやか》しちゃいけませんよ。」と新吉はやっぱりザクザクやっている。気が気でないような心持もした。
「いやまったくですよ。」と和泉屋は反《そ》り身になって、「それで話は早い方がいいからッってんで、今日にでも日取りを決めてくれろと言うんですがね、どうです、女も決して悪いて方じゃないでしょう。」と和泉屋は、それから女の身上持ちのいいこと、気立ての優しいことなどをベラベラと説き立てた。星廻りや相性のことなども弁じて、独《ひと》りで呑み込んでいた。支度《したく》はもとよりあろうはずはないけれど、それでもよかれ悪《あ》しかれ、箪笥《たんす》の一|棹《さお》ぐらいは持って来るだろう。夜具も一組は持ち込むだろう。とにかく貰って見給え、同じ働くにも、どんなに張合いがあって面白いか。あの女なら請け合って桝新《ますしん》のお釜《かま》を興しますと、小汚《こぎたな》い歯齦《はぐき》に泡《あわ》を溜《た》めて説き勧めた。
 新吉は帳場格子の前のところに腰かけて、何やらもの足りなそうな顔をして聴《き》いていたが、「じゃ貰おうかね。」と首を傾《かし》げながら低声《こごえ》に言った。
「だが、来て見て、びっくりするだろうな。何ぼ何でも、まさかこんな乱暴な宅《うち》だとは思うまい。けど、まあいいや、君に任しておくとしましょう。逃げ出されたら逃げ出された時のことだ。」
「そんなもんじゃありませんよ。物は試《ため》し、まあ貰って御覧なさい。」
 和泉屋はほくほくもので帰って行った。
 それから七日ばかり経ったある晩、新吉の宅《うち》には、いろいろの人が多勢集まった。前《ぜん》の朋輩が二人、小野という例の友達が一人――これはことに朝から詰めかけて、部屋の装飾《かざり》や、今夜の料理の指揮《さしず》などしてくれた。障子を張り替えたり、どこからか安い懸け物を買って来てくれなどした。新吉の着るような斜子《ななこ》の羽織と、何やらクタクタの袴《はかま》を借りて来てくれたのも小野である。小さい口銭《コンミッション》取《と》りなどして、小才の利《き》く、世話好きの男である。
 料理の見積り
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