らし、この種類の女は遠く新嘉坡《シンガポール》や濠洲《ごうしゅう》あたりまでも、風に飛ぶ草の実のように、生活を求めて気軽に進出するのだった。

      二

 この客車にI―町の弁護士が一人乗りあわせていた。彼は銀子たちより少しおくれて、乗り込んだものらしかったが、主人夫婦が外套《がいとう》をぬぎ、荷物を棚《たな》へ上げたりしているうちに気がつき、こっちからお辞儀した。
「やあ。」
 と弁護士の方も軽く会釈したが、彼は五十五六の年輩の、硬《こわ》い口髯《くちひげ》も頭髪も三分通り銀灰色で、骨格のがっちりした厳《いか》つい紳士であった。
「先生も春早々東京へお出掛けかね。」
 主人夫婦は座席を離れ、傍《そば》へ寄って行った。
「ちょっと訴訟用でね。貴方方《あなたがた》はまたどうして。」
「私かね。私らも商売の用事をかね、この五日ばかり東京見物して今帰るところでさ。」
 お神は挨拶《あいさつ》を済ますと、やがて銀子の傍へ帰って来たが、主人の猪野《いの》はややしばし弁護士と話しこんでいた。後で銀子も知ったことだが、猪野は大きな詐欺《さぎ》事件で、長く未決へ投げ込まれていたが、このごろよう
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