、いつもそれでは済まず、木槿《もくげ》の咲いている生垣《いけがき》を乗りこえ、庭へおりて縁の板戸を叩くこともあった。
「お前がそれほどいやなものなら、お母さんも無理に我慢しろとは言わない、きっぱり話をつけたらいいじゃないか。」
ある晩も座敷から酔って帰った銀子が寝てから、磯貝が割れるほど戸を叩き、母が聞きかね飛び出して来て、銀子に戸を開けさせ上にあげたが、白々明けるころまでごたごたしていたので、彼女は磯貝の帰るのを待って、銀子に言うのだった。銀子は目を泣き腫《は》らしていた。
「だから私きっぱり断わったのよ。こんな処《ところ》にいるもんかと思ったから。そしたら、あの男も今まで拵《こしら》えてやったものは、みんな返せと言っていたわ。」
「ああ、みんな返すがいいとも。そんなものに未練残して、不具《かたわ》にでもされたんじゃ、取返しがつかない。」
気の早い銀子の父親が、話がきまるとすぐ東京へ飛び出して行き、向島の請地《うけじ》にまだ壁も乾かない新建ちの棟割《むねわり》を見つけて契約し、その日のうちに荷造りをしてトラックで運び出してしまい、千葉を引き払った銀子たちがそこへ落ち着いたのは、夜
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