で行ってみると、磯貝がちゃんとそこに立っていた。
「また嗅《か》ぎつけられちゃった。」
銀子は思ったが、引き返すのもどうかと思案して、かまわず近よって行った。銀子は自分持ちの箱丁《はこや》に、時々金を握らせていたので、栗栖の座敷だとわかると、箱丁も気を利かして、裏の家へ直接かけに来ることにしていたが親爺《おやじ》は見番の役員なので、何時にどこへ入ったかということも、あけ透《す》けに判るのであった。しかしお座敷にいる以上、明くまでは出先の権利で、お客がどこの誰であろうと、どうもならないのであった。ある時も銀子が栗栖の座敷にいると、彼は気が揉《も》めてならず、別の座敷へ上がってよその芸者をかけ、わざと陽気に騒いだりして、苛々《いらいら》する気分を紛らせていた。栗栖もそれが磯貝とわかり、六感にぴんと来るものがあり、酔いもさめた形であった。栗栖の足はそれから少し遠退《とおの》き、しばらく顔を見せないのであった。彼は銀子との結婚について父の諒解《りょうかい》を得たいと思い、遊びすぎて金にも窮《つま》っていたので、手術料などで相当の収入《みいり》がありそうに見えても、いざ結婚となると少し纏《まと
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