《はら》われて来た。
「何だって?」
庸三が訊《き》くと、史朗は痛そうに頭臚をかかえて、
「奴《やっこ》さん何か興奮しているんでしょう。それに僕がちょいちょい覗《のぞ》きに行くもんで。しかしあれじゃ駄目だと思いますね。梢さん僕に詫《わ》びていましたけれど。」
史朗も憤慨したものらしく、清川が葉子に値いしないことを歎《なげ》いていたが、それきり葉子の消息も絶えてしまった。
二十五
三月になってから、ある日も小夜子が庸三の書斎に現われた。庸三は今も時々晩飯を食べに、川沿いの家へタキシイを駆った。たまには人をつれても行ったが、一人の方が気易《きやす》かった。その時分になると庸太郎は小夜子と同伴でない限り、めったに父の書斎に姿を現わさなかったが、それもかえって庸三に都合の好いこともあった。庸三は初めひどくそれを警戒したのであったが、無駄であった。彼は子供の姿を見失わない限り、大抵のことは子供自身の判断に委《まか》せがちであった。それが子供に親切か不親切かはしばらく措《お》いて、子供たちをそれぞれの一人格として見る癖があった。それに彼の気持では若い時代は常に前時代より優れて
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