々|転《ころ》がりそうになったが、風も吹いていたので、揺れる拍子に窓枠《まどわく》に頭をぶちつけそうになって、その瞬間半分ガラスを卸してあった窓から帽子が飛んでしまった。ちょうどわざと飛ばしたように。
「君ちょっと帽子が飛んじゃったんだ。」
運転士は車を止めて風の強い叢《くさむら》のなかに帽子を捜したが、しかしそれも物の二分とはかからなかった。
駅の灯《ひ》が間近に見えて来た。そして今ちょっとのところで駅前の広場へ乗り入れようとした時、汽車の動く音がした。
庸三は何か悪戯《いたずら》でもしたようなふうで部屋へ戻って来た。
「先生オレンジをそう言って!」
やがて葉子も寝床から起きあがった。
入院するまでに葉子の支度はかなり手間取った。ちょうど婦人雑誌に小説を連載していたところなので、それも二月分ためる必要があったし、瑠美子《るみこ》には何か花やかな未来を約束しておきたかったので、差し当たりいつも新しい道を切り開いて、世間の気受けもいい舞踊家の雪枝《ゆきえ》に、内弟子として住みこませたい念願だったので、支度が出来次第、それも頼みに行かなければならなかった。何よりも母に来てもらわな
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