だか馬鹿々々しくなって、クルベーさんに感づかれても困ると思って、五円やって逐《お》っ払っちゃいました。けれど、何しろその人は草鞋足袋《わらじたび》か何かで見すぼらしいったらないんですの。顔見るのもいやでしたわ。」

 ちょうど時間がよかったので、小夜子の望みで彼は久しぶりで歌舞伎《かぶき》を覗《のぞ》いてみることにした。葉子の好きな言葉のない映画よりも、長いあいだ見つけて来た歌舞伎の鑑賞癖が、まだ彼の躰《からだ》にしみついていた。暗くて陰気くさい映画館には昵《なじ》めなかった。
 小夜子は帳場へ出て、電話で座席があるかないかを聞きあわせた。
「二階桟敷でしたら、五つ目がありますの。
「結構。」
「私|支度《したく》しますから、先生もお宅へ着物を取りにおやんなすっては。」
「そうね。」
 その通りにして部屋で待っていると、女中がやって来て、
「何を着て行っていいか、お神さんが先生に来て見て下さいって。」
「そう。」
 庸三が行ってみると、箪笥《たんす》の抽斗《ひきだし》と扉《とびら》がいくつも開いていて、そこに敷いた青蓙《あおござ》のうえにも外にも、長襦袢《ながじゅばん》や単衣《ひとえ》
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