ほうふつ》させるような面白い芝居に出来ていた。モデルがはっきり誰であるとも示すこともできないように、彼女一流の想念の花で粉飾《ふんしょく》されてあった。
「どう?」
葉子は庸三の顔を覗《のぞ》きこむようにして訊《き》いた。
「そうだね。」
「駄目?」
「でもあるまい。」
間もなく浄書がはじまり、一人の助手が部屋に現われた。助手は新進のブロレタリヤ作家の夫人で、その名は庸三も耳にしていたが、紹介されてみて、その純良な婦人であることが解《わか》り、そういう仕事もいくらかの生活の補いになるのだと聞いて、その心掛けに敬意を払わないわけに行かなかった。ある時は女二人が一つ蒲団《ふとん》のなかで、睦《むつ》まじそうに話しながら寝ている傍《そば》で、庸三は頭のつかえる押入のベッドのうえに横たわっていた。
やがて応募作品が十篇二十篇と彼の書斎に持ちこまれて来た。
初め葉子は彼女の計画を庸三には一切秘密にしておくつもりであった。それというのも、あいにく二人の選者のうちの一人が庸三自身であったからで――しかしまた庸三が取捨の一半の権利をもっており、事によれば庸三が採点の遣《や》り繰り一つで、彼女の作品の運命を決定することも不可能ではなかったので、あらかじめ彼の批判を得ておきたくもあった。
「選者として先生をお苦しめするのは、私も良心に咎《とが》めることですから、先生には秘密にしておきたかったのですの。でも先生は毎日のように来るでしょう。私全く困っちゃったの。もちろん栗原《くりはら》さんも大変いいものだから、きっと当選するだろうと言って下さるし、私も脂《あぶら》が乗ったものなの。つい秘密が保てなくなってしまったんですけれど、匿名なら先生の立場だって、別に悪くはないわけじゃない? それも先生に贔屓分《ひいきぶん》に点をいただこうとは思わないの。選者として公平な態度をお失いにならない限度で、もしかして二つ同点の作品があったというような場合に、私のをお採りになっていただけないこともないじゃないかと、そう思ったの。いけない。」
もちろん庸三も客観的な立場を守りたいに違いなかったが、作品が取れば取れるものであることも解《わか》っていた。
庸三は応募作品を一つ一つ熱心に読みはじめたが、題材と舞台に関する限り、今までの文壇人には手のとどかないものもあったりして、彼も興味を唆《そそ》られた
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