高いのが感じがよかった。カアテンとかテイブルセンタアとか、童話趣味の装飾も彼女らしい好みであったが、奥の一部屋だけは、不釣合いに厳《いか》つい床や袋|戸棚《とだな》などちょっと擬ったところがあった。
「さあどうぞ。」
 葉子は縁に近い処《ところ》へ座蒲団《ざぶとん》を持ち出して、かつて自分の田舎《いなか》の家へ招いた時以上にも気を配って、庸三を居馴染《いなじ》ませようとした。例の小樽《おたる》以来の乾児格《こぶんかく》の女流画家や瑠美子もいた。
「小父ちゃん今日《こんち》は。」
 瑠美子は側へ来て、いつかのことも忘れたように、にこにこしていた。
 ルッソオやトルストイの話もここでは出なかったし、晩飯の支度《したく》に働きながら、かつて逗子の家へ彼をつれて行った時と、少しもかわらない調子で、やがて晩餐《ばんさん》の支度に立ち働いていたが、何か融《と》け合えないことが、二人のあいだに挟《はさ》まっていた。庸三はせっかく親しみかけて来た家庭や書斎を、またしても遠ざかって来たような感じで、寛《くつろ》ぐ気持にもなれなかった。これからまたどういうことになるのか、その見透しさえもつかなかったが、差し当たりそれを考える必要もなかった。
 やがて晩飯がはじまった。そしてそれがすむと、瑠美子の童謡舞踊なんかに笑い興じて、しばらく雑談に花が咲いた。新聞の小説の噂《うわさ》、文壇のゴシップ、円本の売れ高、等々。
「そのうち一度二日会のピクニックおやりになりません?」
「ああ、そうね。」
「玉川あたりどうですの。網船を※[#「※」は「にんべん+就」、第3水準1−14−40、284−下−17]《やと》って一日楽しく遊びましょう。私もしばらく皆さんにお目にかからないわ。ぜひやりましょう。私通知出すわ。」

 いつもの彼の姑息《こそく》で、そうしているうちに幾日かの日がたってから、ある時葉子が思い出したように庸三を詰問した。
「いつか先生のところに、まつ屋の浴衣《ゆかた》があったでしょう。あれどうなすって? 私一反ほしいわ。」
 その浴衣地というのは、そのころ誰かの思いつきでデパアトとタイアップで工夫されたもので、作家たちの意匠に成るものであった。庸三も自作の俳句を図案にという註文《ちゅうもん》で、それを葉子が工夫したのであった。
 詰問する葉子の顔は、たちまち険悪の形相をおびて来た。ちょうど昔
前へ 次へ
全218ページ中174ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング