あやま》ちを償わせることが、何よりも必要だと思われた。
 そうしているうちにも、葉子は時々聞こえる自動車のサイレンや爆音に聴耳《ききみみ》を立てていた。彼女の神経に、それが黒須の追迹《ついせき》のように思えてならなかった。世間のすべてが――庸三すらもが今は彼女を迫害するのであった。

      二十

 露骨な争いと、擬装の和解との息詰まるような一夜が明けた。葉子は庸三によって新聞の記事を何とかできるだけ有利に糊塗《こと》しなければならなかったが、庸三もこうして彼女に捉《つか》まった以上逃げをうつ手はなかった。
 十時ごろに目がさめると、葉子はトイレット・ケイスの中から化粧道具を取り出して、顔を直していたが、火鉢《ひばち》のなかから鏝《こて》を取り出すと、カモフラジュの形で、わざと手のとどかないところを庸三に手伝わせたりした。庸三は前にも一度、どこかのホテルで鏝をかけさせられたことがあったが、葉子が耳にかぶさるまで蓬々《ぼうぼう》と延びた彼の髪を彼女流に刈り込むようには器用に行かないので、熱い鏝の端が思わず頸《くび》に触って、彼女は飛びあがって絶叫したことがあった。葉子はいつも自身の幻影に酔っていたし、しばしば鏡にうつる黒い深い目にいとおしく見惚《みと》れて「ちょっと見て。私今日美しいわ」などと無邪気に呟《つぶや》くのだった。庸三もそれはそうだと思いこんでいたが、しかし鏝にさわられて絶叫した時のような瞬間々々の表情の美しさをもちろん彼女自身に見ることはできなかった。庸三はもちろん他の男にも同じ表情をしあるいはもっと哀切|凄婉《せいえん》な眉目《びもく》を見せるであろう瞬間を、しばしば想像したものだったが、昨夜のように気分の険しさの魅惑にも引かれた。
 昨夜連れこまれた時から、庸三は何か胡散《うさん》な気分をこの家に感じていた。ずっと後になってからここのお神《かみ》の口から洩れたことだと言って、そのころ葉子は例の外科の博士《はかせ》をここへ連れこんで来たものだが、他にも若い人と一緒にタキシイを乗りつけたりした。庸三はこの家が彼以前の葉子の愛人の遊び場所だことは、連れて来られた瞬間に気づいたことだったが、そこまで恥知らずの彼女とも思わなかった。しかし、彼は女中やお神に顔を見られるのがいやさに、わざと葉子を床の前にすわらせて、自身は入口を後ろにしていた。入口の襖《ふすま
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