ルミを引き受けるだけの自信が、果して君にあるかどうか、この場で十分我々を納得させるだけの返辞を聴かしてくれたまえ――。とそう言われると青年はにわかに怯《ひる》んで、すみませんと言ったきり、首を俛《た》れてしまった。そしてその瞬間、男性的なマスタアへのハルミの信頼が強められた。
「何の話かと思ったらそんなことか。」
 庸三は擽《くすぐ》ったい感じだった。
「夜があけたらあの人をここへ呼びますから、先生から聴いていただきたいと思うんですけれど……。」
「そんな芝居じみたことは僕にはできない。」
 庸三は答えた。それが苦し紛れの葉子の口実なのか、それとも相手の態度がはっきりしないので、今夜来たのを幸いに、庸三に立ち会ってもらいたいのが本心か、そのいずれだかは彼にも解《わか》らなかった。いずれにしても、青年の家柄、父親の社会的地位などから考えて、とかく誠意を欠いた葉子との結婚が、すらすら運ぶものとは思えなかったし、運んだところで長続きがするか否かも疑問であった。葉子も自身の弱点は相当計算に入れているはずでもあった。
「いけません?」
「僕はそんな厭味《いやみ》なことは嫌《きら》いだ。」
 年齢はとにかく、園田の人格に対しても、そうしたお干渉《せっかい》は無駄だと思った。
 するうちに時計が二時をうった。庸三は頭の心《しん》が疲れて来た。目の始終|潤《うる》みがちな葉子も疲れて来た。
「もう遅いから少しお寝《やす》みになって……。」
 庸三は肱《ひじ》を枕《まくら》にして横になったが、葉子も蒲団《ふとん》のうえに寝そべった。
「あの人体が大きいのよ。そのくせ※[#「※」は「八」のしたに「儿」+「王」、第4水準2−8−14、258−下−3]弱《ひよわ》いらしいの。胸の病気もあるようなのよ。氷で冷やしたり何かしていたのよ。」
 葉子は哀《かな》しげに言った。
 ぼそぼそ話しているうちに、いつか障子が白んで来た。
「もう一時間もしたら、あの人のところへ使いをやりますから、一度|逢《あ》って下さらない。お願いしますわ。」
「あの男から何か話させようとでも言うのか。」
 庸三はそうも思ったが、やがて葉子は車の丁場《ちょうば》で、園田のところへ使いを頼むつもりで、出て行ったあとで、庸三はあらゆる理由を抜きにしても、この場合葉子の恋愛の相手としての子供の友達に顔を合わせたくなかったので、そ
前へ 次へ
全218ページ中144ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング