も遊びに行つたことのある芸者屋だつたが、そこで始まる遊び事は、孰《どつち》かといへば素人の加はつてはならない半商売人筋のものであつた。お神と主人も加はる例だつたが、風向きが悪いとなると、疲れたからと言つて席をはづして、寺銭《てらせん》をあげることへかゝつて行くといふ風だつた。
晴代は堪《たま》らないと思つたので、急いで円タクを飛ばした。皆んなにお煽《ひや》らかされて、札びら切つてゐる木山の顔が目に見えるやうだつた。
自動車をおりてから、軒並み細つこい電燈の出てゐる、静かな町へ入つて来ると、結婚前後のことが遣瀬《やるせ》なく思ひ出せて来て仕方がなかつた。泣くにも泣かれないやうな気持だつた。
目星をつけた家の気勢《けはひ》を暫く窺《うかゞ》つた後、格子戸を開けてみると、額の蒼白《あをじろ》い、眉毛《まゆげ》の濃い、目の大きい四十がらみのお神が長火鉢のところにゐて、ちよつと困惑した顔だつた。
「宅が来てゐません?」
晴代は息をはずませてゐた。
「二階にゐますがね、晴《はあ》ちやんが来てもゐない積りにしてゐてくれと言はれてゐるのよ。」
「これでせう。」
晴代は鼻の先きへ指をやつて、も
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