、多かった。七つのおりからの、色々の思出を辿《たど》ってみると、養父や養母に媚《こ》びるために、物の一時間もじっとしている時がないほど、粗雑《がさつ》ではあったが、きりきり働いて来たことが、今になってみると、自分に取って身にも皮にもなっていないような気がした。或時は、着物の出来るのが嬉しかったり、或時は財産を譲渡されると云う、遠い先のことに朧げな矜《ほこり》を感じていた。そして妹達に比べて、自分の方が、一層慈愛深い人の手に育てられている一人娘の幸福を悦《よろこ》んでいた。
「お島さんお島さん」と云って、周囲の人が、挙《こぞ》って自分を崇《あが》めているようにも見えた。馬糧|用達《ようたし》の西田の爺《じじ》いから、不断ここの世話になっている、小作人に至るまで、お島では随分助かっている連中も、お島が一切を取仕切る時の来るのを待設けているらしくも思われた。
「くよくよしないことさ。今にみんな好くしてあげようよ。ここの身代一つ潰《つぶ》そうと思えば、何でもありゃしない」
 お島は借金の言訳に、ぺこぺこしている男を見ると、そういって大束《おおたば》を極込《きめこ》んだ。
 病気の間もそうであっ
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