、それぞれ分割されたと云うことはお島も聞いていた。
いつか父親が、自分の隠居所にするつもりで、安く手に入れた材木を使って建てさせた屋敷も、それ等の土地の一つのうちにあった。
「ええ。些《ちっ》とばかりの地面や木なんぞ貰《もら》ったって、何になるもんですか。水島の物にだって目をくれてやしませんよ」お島は跣足《はだし》で、井戸から如露《じょろ》に水を汲込みながら言った。
「好い気前だ。その根性骨だから人様に憎がられるのだよ」
「憎むのは阿母さんばかりです。私はこれまで人に憎がられた覚《おぼえ》なんかありゃしませんよ」
「そうかい、そう思っていれば間違はない。他人のなかに揉まれて、些《ちっ》とは直ったかと思っていれば、段々|不可《いけな》くなるばかりだ」
「余計なお世話です。自分が育てもしない癖に」お島は如露を提げて、さっさと奥の方へ入って行った。
十四
お島はもう大概水をくれて了ったのであったが、家へ入ってからの母親との紛紜《いさくさ》が気煩《きうるさ》さに、矢張《やっぱり》大きな如露をさげて、其方《そっち》こっち植木の根にそそいだり、可也《かなり》の距離から来る煤煙に汚
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