て、鳥打をかぶって出て行く姿をちょいちょい見かけた。途中で逢うおりなどには、双方でお辞儀ぐらいはしたが、お島自身は彼について深く考えて見たこともなかった。そして青柳とおとらとの間に、その話の出るとき毎時《いつも》避けるようにしていた。
ある時そんな事については、から薄ぼんやりなお花の手を通して、綺麗《きれい》な横封に入った手紙を受取ったが、洋紙にペンで書いた細《こまか》い文字が、何を書いてあるのかお花にはよくも解らなかったが、双方の家庭に対する不満らしいことの意味が、お島にもぼんやり頭脳《あたま》に入った。お島のそんな家庭に縛られている不幸に同情しているような心持も、微《かすか》に受取れたが、お島は何だか厭味《いやみ》なような、擽《くすぐ》ったいような気がして、後で揉《もみ》くしゃにして棄《すて》てしまった。その事を、多少は誇りたい心で、おとらに話すと、おとらも笑っていた。
「あれも妙な男さ。養子なんかに行くのは厭だといって置きながら、そんな物をくれるなんて、厭だね」
お島は養父母が、すっかり作に取決めていることを感づいてから、仕事も手につかないほど不快を感じて来た。おとらは不機嫌
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