物《しろもの》であった。そうすれば試用の間、一時また支払いが猶予される訳であった。
「こんな際《きわ》どいことでもしなかった日には、私たちはとてもやって行けやしません。成功するには、どうしたってヤマを張る必要があります」
 お島はその時もそう言って、自分の気働きを矜《ほこ》ったが、何の気もなさそうに、それに腰かけている小野田の様子が、間抜らしく見えた。
 がたがたと動いていたミシンの音が止ると、彼は裁板《たちいた》の前に坐って、縫目を熨《の》すためにアイロンを使いはじめた。
「ふむ、莫迦だね」
 お島は無性に腹立しいような気がして、腕を組みながら溜息《ためいき》を吐《つ》いた。
「一生職人で終る人間だね。それでも田を踏んで暮す親よりかいくらか優《まし》だろう」
「生意気を言うな。手前の親がどれだけ立派なものだ。やっぱり土弄《つちいじ》りをして暮しているじゃないか」
「ふむ、誰がその親のところへ、籍を入れてくれろと頼みに行ったんだ。私の親父はああ見えても産れが好いんです。昔はお庄屋さまで威張っていたんだから。それだって私は親のことなんか口へ出したことはありゃしない」
「お前がまた親不孝だ
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