た。工場では皆《みん》な夕方から遊びに出て行って、誰もいなかった。
「そんな腕を持っていながら、名古屋くんだりまで苦労をしに行くなんて、余程《よっぽど》可笑《おかし》いよ」
 川西は、傍に附絡《つきまと》っているお秀をも、湯へ出してやってから、時々口にすることをその時もお島に言出した。
「ですから私も熟々《つくづく》厭になって了ったんです。あの時|疾《とっく》に別れる筈だったんです。でもやっぱりそうも行かないもんですからね」
「小野田さんと二人で、ここでついた得意でも持って出て、早晩|独立《ひとりだち》になるつもりで居るんだろうけれど、あの腕じゃまず難《むずか》しいね」
「そうですとも。これまで散々失敗して来たんですもの」
「どうだね、それよりか小野田さんと別れて、一つ私と一緒に稼《かせ》ぐ気はないかね」
 川西はにやにやしながら言った。
「御笑談でしょう」お島は真紅《まっか》になって、「貴方《あなた》にはお秀さんという人がいるじゃありませんか」
「あんなものを……」川西はげたげた笑いだした。「どこの馬の骨だか解りもしねえものを、誰が上さんなぞにする奴があるもんか」
「でも好い人じゃあ
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