段々|木立際《こだちぎわ》に這い拡がって行った。口も利かずに黙って腰かけているお島は、ふと女坂を攀登《よじのぼ》って、石段の上の平地へ醜い姿を現す一人の天刑病《てんけいびょう》らしい躄《いざり》の乞食が目についたりした。
 石段を登り切ったところで、哀れな乞食は、陸《おか》の上へあがった泥亀《どろがめ》のように、臆病らしく四下《あたり》を見廻していたが、するうちまた這い歩きはじめた。そして今夜の宿泊所を求めるために、人影の全く絶えた、石段ぎわの小さい祠《ほこら》の暗闇の方へいざり寄って行った。
「ちょっと御覧なさいよ」お島は小野田に声かけて振顧《ふりむ》いた。
 今まで莨を喫《す》っていた小野田は、ベンチの肱《ひじ》かけに凭《もた》れかかっていつか眠っていた。
「この人は、為様がないじゃないの」お島は跳《はね》あがるような声を出した。
「行きましょう行きましょう。こんな所にぐずぐずしていられやしない」お島は慄《ふる》えあがるようにして小野田を急立《せきた》てた。
 二人は痛い足を引摺《ひきず》って、またそこを動きだした。
「何でもいいから芝へ行きましょう。恁《こ》うなれば見えも外聞もあ
前へ 次へ
全286ページ中207ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング